日本において、中国発の推理・ミステリー作品は
翻訳数が少なく、作家もあまり知られていない。
ここでは今注目の、
魅惑的な謎を論理的に解体していく〝本格ミステリー〟と、
重厚な社会派ミステリーの作家を紹介する。
本格推理×SF・寵物先生
中国台湾では、2009年より、
中国語で書かれた本格ミステリー作品を対象とした
「島田荘司推理小説賞」が開催されている。
この、栄えある第1回目受賞作品が、
寵物先生による『虚擬街頭漂流記』だ。
かねてから日本文化に親しんでいた彼は、
推理小説家・綾辻行人作『十角館の殺人』を読んだことをきっかけに、
自身も創作活動を始めたという。
現在発表されているのは、同名で邦訳もされた、
前述の長編1作と短編5作。
大学で情報科学を学んだ経緯もあってか、
バーチャル世界やロボットなどのSF的要素
と推理要素を融合させた作風が持ち味だ。
またトリックだけではなく、親子の情など
〝泣き〟要素も強く、人間ドラマを著す手腕にも長けている。
社会派ミステリー・張平
張平は、中国国内で様々な文学賞を受賞した実力派作家。
綿密な取材を重ね、地方幹部の腐敗など実話をもとに、
デリケートな社会問題に鋭くメスを入れる。
取材中に圧力をかけられたこともあるそうだが、
自作の主人公のように骨太でパワフルに作品を発表し続けている。
実際の事件をもとにしているとは言っても、
ルポルタージュ風にまとめたものではなく、
章ごとに時制をシャッフルするなど、
ストーリーへ引き込む構成を採り、
一流のエンターテイメント作品に仕上げている。
作中では暴力的で残酷な描写も多々あるが、
解決に向けて命がけで奮闘する緊迫感や真相が
徐々に明らかになるスリリングさで、
ページをめくる手が止まらなくなるはずだ。
~広東ジャピオン2014年9月15日号