人肉マントウを売る女
武松も認めたその豪胆さ
孫二娘は、夫とともに居酒屋を営んでいた。
しかし、ただの居酒屋ではない。
客として来店した旅人を殺して金品を奪い、
遺体をマントウの餡にするという、恐ろしい店だったのだ。
そして孫二娘は、持ち前の美貌と、
追いはぎ強盗であった父から受け継いだ武芸や怪力で、
次々と客を襲っていた。
そんな彼女は、残虐な鬼神・夜叉にちなみ、「母夜叉」と呼ばれる。
孟州市の北部を流れる黄河。
梁山泊のあった場所(山東省西部)は、黄河によって形成されたという
ある日、虎退治で有名になった武松が店にやって来た。
孫二娘はそうと知らず、注文された肉マントウと酒を用意。
一口食べた武松が、「これは人間の肉か犬の肉か」と問うと、
孫二娘は慌てることなく、
「人や犬の肉は食べさせません。牛の肉です」と答えた。
しかし、武松をもマントウにしてやろうと機を窺い、
最後にしびれ薬を盛るのだった。
孫二娘が倒れた武松を持ち上げようとすると、
彼は突然動き出し、孫二娘を押し倒して馬乗りになった。
最初から彼女を怪しんでいた武松は、
酒は飲まず、目を回したふりをしていたのだ。
孫二娘は諦め、降参すると、その後は武松を何度も手助けし、
武松もそんな孫二娘を頼もしく思い、彼女に入山を勧めた。
そして、梁山泊で彼女は夫・張青と、
諜報機関として機能する料理店を経営するほか、
軍人としても華々しい活躍を見せていく。
孟州市郊外にある韓園は、
唐代(618~907年)の詩人・韓愈(かんゆ)の陵墓
孫二娘が居酒屋を経営していた孟州市。
河南省の北西部に位置し、市の北部を黄河が流れる。
唐代の詩人・韓愈の故郷として知られ、
韓園や黄河湿地など、数多くの観光地を有する。
「母夜叉」と恐れられた孫二娘の心は今でもまだ、
母なる河、黄河に眠っているのだろうか。
~広東ジャピオン2014年3月10日号