すべての子に本の楽しさを伝え、心地よい空間をつくる
上海に暮らす日本人の子どもたちに、日本語の本を手渡したい。
本を読む楽しさを知ってもらいたい。
文庫活動を通し、子どもと本をつなぐかけ橋をつくる
足立美穂子さんの想いとは――?
文庫のある街に暮らす
「絵本読むよ~、みんなおいで~」。
一斉に振り向き、走り出す子どもたち。
「上海虹文庫」は、
上海に住まう子どもたちに、本を貸し出す文庫だ。
虹文庫の現代表を務める足立さんも、元は一利用者。
「上海に来て1カ月ほど過ぎた時、
主人がネットで調べてきたんです」。
海外に暮らしていると、日本語を話す機会がどうしても少なくなる。
子どもが日本人の友達をつくる助けになればというのが、ご主人の願いだった。
ふと、母親や兄弟と図書館に通った記憶が蘇ってきた。
「毎週、母が連れて行ってくれたんです。土曜日が待ち遠しかった」。
幸せな記憶をわが子にもと、早速2人で出かけた。
読み聞かせが親子をつなぐ
その日はちょうど、「お話し会」が開かれていた。
絵本の読み聞かせが始まるやいなや、
子どもたちが読み手のそばに集まり、
目を輝かせ、熱心に聞いていた。
そして、読み聞かせスタッフが不足気味だと聞いた足立さんは、
すぐにスタッフに加わることを決めた。
「ラジオ局での経験から朗読には自信があったし、
子どもたちの、こんな素敵な笑顔をつくるお手伝いをしたい」。
読み聞かせは、単なる朗読ではない。
親と子が本を仲立ちにしてコミュニケーションする、
そうした奥深さを知った。
読書で子どもを育てる
さらに半年後、足立さんは会誌『虹文庫だより』の編集スタッフになった。
文庫に関わる様々な活動を会員に伝える仕事は、
学ぶことも多く、文庫への思いがいっそう深くなった。
「知れば知るほど、いろんな人が関わっていて、
私も娘も本当にお世話になっていると感じた」と話す足立さん。
この恩を返したい、という気持ちが強くなる中、
前代表から、次期代表にとの話があった。
できることなら何でもするつもりはあったが、
「でもいざやってみたら、外部とのやりとりやら、そりゃもう大変で!」と、
足立さんは苦笑する。
虹文庫に初めて足を運んだ日、
その蔵書数の多さに圧倒された。
外国で、これほどの本をそろえた先輩たちの苦労を実感した。
「本を読むことは、本の中でいろいろな経験をしながら育っていくこと。
言葉が育ち、考える力が育つ。
こうして得たものは決して失われることはないし、
生きることの肯定感につながる。
総会員数約220人、大所帯の虹文庫を束ねる立場になっても、
足立さんは母親の視点で、
子どもたちに本を届けることが喜びだという。
毎週開かれるお話し会。
読み聞かせを楽しみに通う、子どもたちの笑い声が響き渡る
~広東ジャピオン2014年9月22日号